こて絵とは

喜多方では4,000棟以上の様々な種類の蔵を自然の中に散在させ、多様な用途に使われて、今も生活の場になっている。
蔵には屋号や火事防止の願いの文字が描かれている事が多いが、絵が描かれている蔵は珍しい。蔵の壁を塗る時に使う道具の一つである「鏝:こて」で浮き彫りにして描き出したものを「こて絵」という。
黒や白、緑、青、赤などの原色で着色してあることが多く、絵柄では、花はボタン、樹木は松、動物は鶴や亀、龍や牛、馬、鷹などで、当時の人々の生活観をうかがうことができる。黒い馬、黒い牛は雨乞い、白い動物は晴天が続くようにとの願いが込められている。また、「こて絵」は、壁に描かれたものと窓等に描かれたものがある。更には、市内には蔵ではなく、室内にこて絵がある家がある。鴨居上の壁面に、龍や鶴などが描かれており、鶴は本物の稲穂をくわえている。
「こて絵」のある蔵は明治27年から34年頃に建てられたものが多く、幻の職人「金壁」「壁金」の作といわれている。

幻の職人

幕末のころ、下三宮の豪農だった荒川家に一人の男がどこからともしれず、ひょうひょうとやってきた。庭師とも、左官ともいった。そのまま、邸内の小屋に住み込んだ。数年間いるうちに、庭を造り、小屋を建て、壁を塗り、こて絵で白壁を飾った。名を聞くと、男は、「金壁」と呼んでくれ、といった。男は、こて絵を描きあげたあと、しばらくすると、またひょうひょうと、どこへとも知れず去っていった。
荒川家には、こて絵が描かれた経緯がこう伝わる。「金壁」とは、むろん本名でないだろう。しかし、壁塗りとこて絵にかけては、俺の右に出るものはねえだろう、との職人の意地と心意気が込もる名ではある。喜多方のそこここに残るこて絵には、こうした「幻の職人」の手になるものが、少なくないのかもしれない。※

※ 引用:池内紀昭著、歴史春秋社出版(昭和54年)、くらのまち喜多方 蔵のうちそと

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